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PRIDE 出逢い 【ネット小説】

凛華子はアパレルメーカーに勤めている。

5月1日、いつも着る洋服も普段よりなぜか選ぶのに時間もかかる。

アクセサリーひとつひとつ丁寧に合わせていく。

「これでよし。」出勤する準備は整った。

「今日は、帰り遅くなる。友達に会って帰るから。」

母の顔を見るけれど、目を合わせづらい。

「行ってきます。」「気を付けてね。」

いつもの会話。いつもの日常。

「おはようございます。今日の売り上げ目標は・・。」

マネージャーの声が遠く聞こえる。耳に入らない。

ただ、笑顔は絶えない。接客にも、商品ひとつ扱うにも普段より丁寧だった。

11時。

「3番行きます。」3番とはトイレのこと。

実際に行きたかったわけではなく、ロッカーにあるスマホを確認したかった。

ラインあり。

「もうすぐ休憩。そっちは?」彼からだ。

笑みがこぼれる。なんだかおかしい。

まだ、会ったこともない相手。楽しい、嬉しい。

「休憩はまだだよ。」返信。

何もなかったかのように職場に戻り、接客を始める。

新しく届いた商品をハンガーにかけて店頭に並べたりするけれど

時間はなかなか経ってはくれない。

13時半。

「休憩どうぞ。」声をかけられて

「2番お先にいただきます。」と言ってロッカーへ急いで向かった。

スマホを確認。ラインあり。

「休憩終了。そっちは?」

「いまからだよー。」

「後半頑張ります!」

「頑張れ!」

休憩は40分なのだが、いつもより長く感じてしまう。

同僚と話をするも会話が頭に入ってこない。相槌をうつので精一杯だ。

休憩が終わるとすぐにスマホを確認する。

ラインなし。

(そんなに入らないよね。まだ会ったことないし。期待したらだめじゃん。)

仕事に戻り、接客やマネキンを着せ替えたりと仕事はやることは多いものの

集中できない。時間も経たない。

16時。「3番行きます。」

すぐにスマホを確認。ラインあり。

「あと、2時間!」

思わず吹き出す。「頑張るよー!」

戻って仕事に入ろうとするが、もう仕事どころじゃなくなってる。

何度も同じ商品を丁寧にたたんでみたり

接客に入るも普段通りにいかず、提案がなかなかうまくいかない。

17時。ゴミの回収をし、店舗の片づけや日報作業に入る。

18時。音楽が流れ、お客様をお見送りし、店舗を閉じる。

同僚と一緒に駐車場へ向かいながら、いつスマホを出そうか伺うけれど

そのタイミングが分からない。

「また明日ね。お疲れ様。」凛華子はそう言って車に乗り込んだ。

 

車に乗ると、すぐにスマホを出し、彼にライン。

「仕事終わったよ。今から向かうね。ここからだと30分くらいかな。広島市内だよね。」

すぐに返信あり。

「そそ。広島市の西区なんよ。近くにマリーナがあるかな。着いたらラインして。」

「おけー」

凛華子は車を走らせる。

どんな人なのかなんて想像する余裕なんてなかった。

ただただ、車を走らせるだけだった。

流している音楽のアーティストが誰かなのかさえ

何の曲なのかさえ分からなかったし

そんなことはどうでも良かった。

 

大翔は営業。スマホを扱うショップ店員だ。

契約を取るのが仕事。

 

5月1日。

凛華子がどんな人なのか、そればかり気になっていた。

会いたかった。

片目だけしか撮影されてなかった写メ。

はつらつとした声。

どんな人なのか。

時間は過ぎていく。

どうやって会おう、なんて声をかけよう。

 

「あと2時間!」ライン送信。

「頑張るよー!」返信。

「仕事終わったよ。今から向かうね。ここからだと30分くらいかな。山口市だよね。」18時過ぎにラインが入る。

店舗がどこにあるかは彼女に伝えた。

 

あと、30分。30分しかない。

あれだけ会いたいと思った人があと30分で会いに来る。

少しの不安と期待。

不安は自分の期待とは違った時のもの。

期待は、あの大きな綺麗な二重の片目の写真から想像する女性。

(男は勝手なもんだな)

 

ヒールの音がした。

彼女か。

彼女だ、とすぐに分かった。

ショートカットの細見の女性。

綺麗な人だった。

 

誰もいない。

やっぱり会えなかったか。

スーツの男性が「いらっしゃいませ。こんにちは。」と笑顔を向ける。

彼か。

彼だ、とすぐに分かった。

スーツの似合う、細身で短髪の背の高い清潔感のある男性だった。

 

これが二人の初めての出逢いである。

20〷年5月1日。

 

 

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