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PRIDE 繋いだ手【ネット小説】

店を出て、二人で車に乗り込んだ。

「「付き合ってください。」」

驚きと、少しの不安とそれより大きな喜びで凛華子はいっぱいだった。

ふと、助手席を見る。

大翔が座っている。

大翔は突然の広島転勤のため、車を所持していなかった。

大翔も凛華子を見つめ返し、手を握った。

手を繋ぐことに違和感はなかったし、こうなることは自然と分かっていたようにさえ感じてしまう。

 

車の中、運転しながら手はずっと繋いでいた。

大翔のアパートの近くまで来た。

「前まで行こうか?」そう凛華子は言ったけれど

「ここでええよ。もうすうぐだし、歩いて帰る。」と大翔は言う。

「分かった。」なんとも言えない気持ちだった。

それはまだ一緒にいたかったし

あまりにも突然すぎる告白に戸惑いはあったし

不安がないと言えば嘘になる。

(なんで、ここから歩いて帰る?)

そう思ったけれど、伝えても

「ええよ。大丈夫。悪いから。」そう言われる。

「分かった」以外の答えに選択肢はなかった。

「また明日ね。準備できたらラインするわ。」

そう言って凛華子は車を走らせた。

 

家に着くと、時間は2時を回っていた。

(あんなに一緒にいたのか。いっぱい話したんだな。)

スマホが鳴る。大翔からだ。

「着いた?」

「着いたよ。また明日。」送信。

普段より時間をかけてお風呂に入る。

今夜はなんだか眠れそうにない。

付き合うことになるなんて思わなかった。

望んでなかったわけじゃないけれど

現実となるとこれからどうなるのかと思いを駆け巡らせたが

何も分からなかった。

分からないのは、まだ大翔を知らないからなのか

【子どもがいた】事実なのか。

結婚していた過去のことはいい。

凛華子も同じ過去があるのだから。

 

恋は盲目。

そんな、過去の事実も今は忘れてしまう。

「彼に、大翔に会える」こと。

ただそれだけ。

声が聴けること。手を繋ぐこと。

目を閉じる。凛華子は深い眠りについていた。

 

朝起きると、凛華子の両親が

「今日、リンゴを病院へ連れて行くよ。

フィラリアの薬そろそろもらわないと。」と話してきた。

翔との約束は11時。今8時半過ぎ。約束の時間に遅れてしまう。

 

リンゴは雑種で、4歳。一人暮らしの時に

愛護団体から譲りうけた犬だった。

リンゴは人をとても怖がっていた。

ベットの下から出てこようともしなかった。

出てくるのは、ご飯とトイレの時だけ。

ご飯も誰もいない時に食べていたし、トイレもそうだった。

抱っこなんてできるるわけないし、触ることも嫌がった。

おもちゃで遊ぶこともなかった。

お医者さんから、撫で方を教えてもらい、少しづつ慣れていった。

頭を耳から優しく、顔全体を包むように「大丈夫だよ。」

と声をかけながら撫でる。

それをずっと繰り返した。

ご飯を食べた後、トイレの後、ベットの下から出てきた時。

散歩も出来なかった。

いわゆる犬らしい歩き方ができなかったのだ。

10メートル歩いては抱っこしては帰る。この繰り返しだった。

距離を少しづつ伸ばし、外に出ることを慣らし、まず歩くことを覚えるようにした。

今ではしっぽをなびかせ、風のように一直線に走る。

とても気持ち良さそうだ。良かったな、とその姿を見るたびに思う。

ようやく安心してご飯を食べて、眠れて、外を走ることができる。

凛華子はほほえましくなるのだった。

「リンゴ!」と呼んで、こちらに走ってくる姿が大好きだ。

その姿はとても綺麗だから。

リンゴは家族にだけは慣れてくれ、番犬にまでなってくれている。

甘えん坊の可愛いリンゴ。

寝るときも同じ布団で寝ている。

家族の大切な一人なのだ。

 

大翔にラインする。

「ごめん、少し遅れます。

リンゴを病院へ連れて行かないといけなくなった。」送信。

「ええよ。時間つぶしとくから。気を付けて。」

すぐにリンゴを病院へ連れて行き、診察を受けて、フィラリアの薬を処方してもらった。

健康状態も良く、安心した。(リンゴは健康!)

 

「終わったよ。リンゴをうちに連れて帰ってすぐ向かうね。」送信。

「急がなくていいから。大丈夫。」

「ごめん。待たせて。すぐ行きます。」

 

凛華子は車を走らせた。すでに12時を過ぎようとしている。

焦る。

(待たせてる)待つのは苦じゃないけれど

待たせるのは好きじゃない。

 

「着いたよ。どこ?」大翔の店舗の近くだ。

「コイザラス」

(コイザラスか。コイザラスは子どものおもちゃなんか売ってるな。)

「着いたなら駐車場いくから。」

 

大翔が笑顔でこちらに来る。

「ごめん。待ったよね。」

「とりあえず移動しよか。ここ職場の近くやし。」

凛華子は車を走らせる。

「どこ行く?ご飯食べ行く?カフェとかは?」

「とりあえずどっか入るか(笑)」

 

大翔が凛華子の手を握る。

それは、いつも二人がしているかのようだった。

繋いだ手のまま凛華子は車を走らせた。

 

 

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