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またね、大切な人 ~ひとりで生きていく覚悟~ ネット小説【鳥籠の中の私】

あれから、蓮司と京香の生活は変わることはなかった。

変わったことといえば

【夫婦で生きている】というより

【ふたりで生活をしている】という感じだった。

 

【ふたりで生きていく】ことと

【生活をしていく】ことは

【夫婦】だから成り立つものだと思っていたし

【ふたり】だからできるものと思ってた。

 

けれど、その【ふたり】の関係が

決して【夫婦】でなくても

愛し合う関係でなくても成り立ってしまうこと。

 

それは、生きていくため。

 

【生活をしていく】ということが

どれほど複雑であり

またシンプルなものであるのかと思う。

 

京香は、ふと香澄のことが頭をよぎる。

それは、嫉妬や怒りでもなく

ただ、どうしているんだろう、と思うのだ。

 

ふと、最近、隣の犬が鳴かないことはことに気がついた。

あれだけ、鳴いていた声を聴かなくなったことが

急に寂しくも思えた。

京香は庭に出て、隣の庭をのぞいてみた。

(え?)

繋がれていたはずの犬がいないことに気づく。

鎖が首輪から外れてしまっていた。

(自分から逃げたのね・・)

自分の犬であるかのように、少し近所を歩いてみたけれど

見つかるはずもなかった。

いつからか聞こえなくなったあの儚げな鳴き声を・・。

 

(ずっと繋がれたままで、そこの世界しか知らなかったものね。)

京香は思う。

(他の世界を知る方がいい。見つける方がいいわ。)

そう願い、少しだけ晴れた空を見上げた。

 

京香が俺に何か聞くこともなかったし

俺から話すこともなかった。

 

それなのに【日常】は過ぎていく。

ここに今、自分の生活が【在る】ということ。

 

それは京香存在があるからこそ、その日常は存在する。

けれど、今までのような幸せな日々ではないし

京香の笑顔を見ることはなくなった。

笑い声も聞くことさえなかった。

 

ただ【生活】だけがそこにあり、俺がそこにいる。

【許し】を請うことで京香との関係がうまくいくはずもなく

決して許されるはずもなく

【許す】【許されない】【許さない】という問題でもない。

だからこそ、一番こたえるし、戸惑い

ココロが打ちひしがれる。

それなのに、京香のそばにいるということ。

京香とともに過ごすことをしている俺は

彼女を求めているし、求めて欲しいと思う。

一番愛して欲しいと思う。

(勝手だ)

ソファーにぐったりと座り込み、天井を見上げた。

(この家は静かだな)

蓮司は思った。

(京香はひとりでいたんだな)

目を閉じる。

(静かな、広いこの家でひとり何を想ってきただろう)

ココロに闇が覆ってきた。

 

京香は目を閉じて眠ろうとしたけれどなかなか眠れなかった。

この生活はいつまで続くの?

このままではいけない・・。

 

【ふたりで生きていくって決めたでしょ?】

そういって蓮司と手を繋いでいる夢を見た。

【そう、ずっと。そばにいる】

京香は幸せでいっぱいだった。

その時

ガチャン!頼んでいたチャイラテがこぼれてしまった。

京香はチャイが好きだった。

チャイを置いているカフェが少なくて

【このお店になかなか来れないのに】

京香は悲しそうに言う。

【大丈夫、また来よう】

【またって、いつ?】
【今度な】

京香は泪に気づいて目を覚ました。

 

あのお店はまだあるだろうか。

蓮司が初めてプローズしてくれたお店。

それからそのお店に行くことはなかった。

約束は叶うことはなかった。

蓮司がカフェが苦手だったから・・。

(またなって言ってたな)

天井を眺め、泪だけがこぼれる。

 

(またね、蓮司)

 

朝が明けようとしていた。

カーテンから少しずづ部屋が明るくなるのが分かる。

 

【ひとり】で生きていく【覚悟】をした朝だった。

 

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