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PRIDE 【夫婦】になること 【ネット小説】

大翔に抱き締められる度に思う。

「凛華子」と呼ばれる度に思う。

この人といられることが【幸せ】だなと。

 

いつしか抱いていた不安もなくなりはしないけれど

小さくはなっていく。

この一瞬を、ひとときが大切に想うから。

 

リーがいてクーがいて、サラがいる。

大翔がいる。

(十分じゃん)

クーをソファで撫でながら思う。

 

あの日を思い出す。

結婚して2ヵ月。

「もう無理やわ。俺、出てくわ。」

初めて大翔が口にした。いくら喧嘩をしても家を出るなんて

言ったことなんてなかった。

凛華子はよく言っていた。

「あたし、もう無理やわ。」

不安も怒りも、口に出せていない言葉もたくさん抱えていたから。

 

凛華子は初めて焦りを感じた。

(本当に終わり?)

以前、大翔は言っていた。

「俺から終わりって言った時は、ほんまに終わりやから。」

それを言った時の大翔は、笑ってなどいなかった。真顔だった。

怖かった。不安でいっぱいなって、いつ言われるかビクビクしていた。

(あー、その時が来たんだ)

胸が苦しくなる。突き刺さる。

 

凛華子は泣いた。初めて声に出して。大翔の前で。

泣いたのは3度目。

1度目は【許そう】という泪。

2度目は【許されない】泪。

3度目は【後悔と哀れな自分】への泪。

一番情けなかったかもしれない。見せてはいけなかったのかもしれない。

それでも声を上げて泣いた。

出ていく大翔を引きずって止める。

「待って、行かんで。話を聞いて。」

大翔は足を止める。止めてくれてた。

「何の話?ないやろ?」

実際なかった。引き留めるだけのただの理由に過ぎない。

大翔はそれを分かっているし、知っている。

「俺、行くわ。」

「待って!」

どれだけ大きな声だったことだろう。

「今までどれだけ待ったと思ってるん?分からんやろ?」

「今までどれだけ辛かったか分からんやろ?」

凛華子は初めて口にした。言葉にした。

 

(もう、いっそ殺してしまいたい)

そんな【衝動】に駆られる。止められない【衝動】

【許せない】。

【衝動】は【許せない心】を加速させる。

凛華子は灰皿を手にしていた。

力で叶わないことなど分かっていたし

かわされることくらい分かってもいた。

けれど、この【衝動】は抑えられず

凛華子の力にも及ばなかった。

 

大翔は後ろを振り向き、すぐさまよけた。

凛華子の手を掴む。

「何してんの!正気か!」

凛華子の顔は普通じゃない。

目は充血し、顔は紅潮している。

見たこともない顔だ。

(いつもの凛華子じゃない)

我にかえる。

灰皿がドスンと足元に音を立てて落ちる。

泣きじゃくる凛華子。

 

こんな凛華子の姿を見るのは初めてだった。

(どれだけ待ったと思ってるん)

(どれだけ辛かったと思ってるん)

本音だ。

(やっと聞けた)

なぜか安堵感があった。

凛華子から責められたことなど一度もなかった。

それだけに苦しかった。

(よう言ったな、ほんま。しんどかったな)

大翔は凛華子を強く抱きしめる。

何も言わず、ただただ抱きしめたんだ。

凛華子は泣いた。

何も言わず、泪だけがただただ流れ、声を出して泣いたんだ。

 

あれからもうすぐ2年。

大翔の【過去】について考えることも少なくなった。

なぜなら大翔と約束した。

「不安を言葉に何でもして。思ったことも。」

「言えるように俺もするから。」

大翔は変わろうとしてくれてた。

それだけで十分だったし、【許す】ことができた。

【許した】のは大翔と凛華子。

 

【許す】ことは簡単じゃない。

相手も自分もまず認めること。

【認める】ことも容易じゃない。

【許す】ことと【認める】ことができた時

【夫婦】になれるのかもしれない。

 

そして、最近の物忘れの事が色々わかりだした。

パソコンの前で凛華子は泪を流す。

(こんなにできなかった?分からなかった?)

明日は病院へ行く日。

大翔もついてきてくれる。

(大丈夫)

そう言い聞かせて、瞼を閉じた。

 

もうすぐ大好きな、愛しい大翔が帰ってくる。

 


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