ナツのsorary

小説 おしゃれ 携帯やブログ設定など連載中です!

【儚げ】に鳴く犬 鳥籠の中の私 【ネット小説】

洗濯物を干し終え、リビングや2階に掃除機をかける。

いつもの生活。

午前中のうちに晩御飯の下ごしらえをしておく。

それから、パートへ行く準備をする。

これが、京香の【日常】。

 

ラインの音が鳴った。

ラインを開く。

「喧嘩をしても気持ちはいつまでも変わらないままだから。」

そう書いてある。

安心する。

そうあるべきなのに、なぜか心がざわつく。

「ずっと愛しているからね。」

文章を眺めた。

「変わらないままでいてね。」

返信。

本心だった。なぜかそう思った。

【夫婦】であればそうは思わないのかもしれない。

【恋心】を蓮司に抱いているせいなのだろうか?

京香は思ったけれど

「愛しています、だから変わらないでいて。」

願うように綴った文章だった。

蓮司には何気ない言葉なのかもしれない。

けれど、このざわつく心は何なのだろう。

確かなものがあるわけではないけれど

【予感】といえばおかしいかもしれないけれど

何かストンと落ちてこないこの感情は何だろうか?

「気にしすぎなのかも。考えすぎか。」

独り言を言って、キッチンへ向かった。

 

隣の犬が昨夜から鳴いている。

(そういえば、またさっきから鳴き始めたな、どうしたんだろ)

京香はあまりにも気になってしまった。

その犬はよく鳴いていた。

キャンキャンと鳴くのではなくて

とても哀しそうに鳴くのだった。

昼も夜も関係なく、時間を問わず鳴いている。

夜中でも鳴いている時があるので

蓮司は、すごく【うるさい】と気にしていた。

私は、【うるさい】というより【儚げ】に鳴く声が

気になって仕方なかった。

 

隣に住む人をあまり見かけたことはなかった。

ただ、あまり家をきれいにしている住人ではなかったことはよく分かる。

庭も草木が生い茂り、カーテンもいつも締め切られていた。

庭には、トラックが1台いつも止まっている。

出かけている感じはあまりしない。

 

1度だけキッチンの窓が開いていたことがあった。

家のキッチンの窓を開けて掃除をしていた時に偶然見えた。

【偶然】と思ったけれど、興味もあって見てしまった。

中の人は中年の男性だった。

晩御飯なのか、魚を焼いていた。

 

その後、もう一度見る機会があった。

裏の倉庫へ行った時に【偶然】見かけた。

その中年の男性は瓦礫を集めていた。何をしているのかは分からなかった。

 

見かけたのはそれだけだった。

 

あまりに犬が鳴いているので、京香はサンダルを履き庭へ出た。

庭から隣の庭を覗いた。

犬は鎖に繋がれていて、ウロウロしていた。

大きさは中型犬だろうか。

でも、それより体が一回り小さい気がした。

雑種で茶色の犬だった。柴犬のようにも見えた。

(あんな鎖にいつも繋がれていたんだ)

 

その鎖は決して長くはなく、2メートルあるだろうか。

犬小屋はあったけれど、中には何もなかった。

餌を入れる入れ物も水もなかった。

(ご飯食べてないのかな)

京香はサンダルを脱いで、リビングへ入った。

 

もしかしたら今ご飯の時間じゃないのかもしれないし

夜にはお家に入れてもらえるのかもしれない・・・

そう思いたかった。

 

あの鳴き声は飼い主に何かあったことを知らせているのかもしれない

とさえ思ったから。

 

犬を怒鳴る声をあまり聞いたことはない。

だから、なぜあんな声を出して鳴くのか。

初めて犬を目にした時、声がでなかった。

 

鎖に繋がれていても、しっかり歩き、何かを訴えるように

鳴くその犬はどこか強くも感じた。

鎖に繋がれ、その犬は鳴くことしか出来ない。

声を出して何かを伝えているということ。

考えていると、犬は鳴くことをやめていた。

 

京香はラインを読み返していた。

「喧嘩をしても気持ちは変わらないから」

「喧嘩なの?」

「意見の交換か(笑)」

意見の交換か‥

京香はため息をつく。

 

ざわつく心が何なのか。

それが【その時】は分からなかった。

自分の想いを伝えていれば良かったのだろうか、【今】そう思う。

ぶつけていれば良かったのだろうか、【あの時】。

 

【儚げに鳴く】犬は、またその夜も鳴いていた。

 

にほんブログ村 ファッションブログへ