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【奇跡】を願い続けること 鳥籠の中の私 【ネット小説】

それは、【たまたま】だったのかもしれないし

【必然】だったのかもしれない。

 

京香は病院で受付のパートをしていた。

診療科は産婦人科だった。

 

この病院は産科・婦人科だけでなく、

不妊外来やアンチエイジング外来もあった。

アンチエイジング外来もあったこともあり

ひとりで診察に来る女性は多かったし、珍しいことでもなかった。

不妊外来では、夫婦でくる人もいたが、ひとりで診察にくる女性もいた。

婦人科となれば、年齢は幅広い。

 

そんな中で、受付の仕事をすることは京香はとてもやりがいを感じていた。

パートではあったけれど

新しい命がこれから生まれてくることは

純粋に嬉しく、楽しみでもあった。

治療を行う患者さんの想いも同じ女性としていろいろな想いもあった。

 

特に、【不妊治療】をする人への気持ちは分かるような気もした。

 

京香自身、【不妊治療】をしたことはない。

けれど、【子どもを授かりたい】という想いはよく分かる。

【妊娠】は本当に【奇跡】であり、

新しい命が生まれるということはどれだけ素晴らしいことなのか。

【妊娠】や【出産】が決して【当たり前のことではない】ことを

京香はよく知っていた。

だからこそ、自分が女性でありながら

なにか不完全な人間であるような気持ちになるときがあった。

どうして子どもができないのだろうと・・・。

 

いつからだろう、と思うのだった。

【不妊治療】という言葉が行き交うようになったこと。

そんなに子どもができないことが不自然なことだろうか?

【不妊症】や【不妊治療】といった言葉が

子どもを産まなきゃいけない、

産むことが【普通】とされてきたんじゃないのかとさえ思う。

 

子どもは自然に授かるもの。

それで【悩む】ことはどうしてなんだろうと思う。

決して【できない】ことは【自分がダメ】なわけではないのに‥。

 

願い続けても、愛する人といくら愛し合っても授からないのはなぜ?

京香は思うのだった。

 

その週末の土曜日、蓮司の職場に行く機会があった。

蓮司がお弁当を忘れて行ってしまったからだ。

職場へ着くと、入り口の向こうに蓮司の姿が見えた。

京香はお弁当を持って、車から下り、車のキードアを閉める。

 

自動ドアが開いた。

「いらっしゃいませ。」

中からスタッフの声が聞こえた。

ここは、外車の販売会社。

蓮司はそこで営業をしている。

若い女性が京香に声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。」

足をきれいに揃えて、姿勢を正し、京香にお辞儀をする。

(きちんとした会社だな)

京香は思った。

「あの、主人は今手が空いていますでしょうか?

先ほど連絡をしてこちらに来るように伝えてあったんですが‥。」

「城木さんですか?」

その女性は答える。

「少々お待ちくださいませ。」

その女性は受付カウンターに小走りに歩いて行った。

その様子を京香は見ていた。

カウンターの様子は京香からはよく見えた。

入口から立ってそのままだったし、カウンターは入口の真正面にあったからだ。

蓮司がカウンター奥から出てきた。

カウンターでその女性と話し始めた。

 

ふと、その女性が京香を見て微笑んだ。

(え?なに?)

明らかに目が合った。

そして、また蓮司と目を合わせて話し始めた。

 

蓮司は笑顔で京香を見ながら歩いてきた。

「ごめん、わざわざ届けてくれて。ありがと。助かったよ。」

(なんだろ、この違和感)

「どうした?」

「ううん。お弁当温めれる?」

ふと、そんなことを聞いてしまった。

「事務所にレンジがあるから大丈夫。」

視線を感じたので、蓮司の方に目を向けると、

その向こうに【彼女】が微笑みながらこちらを見ていた。

 

(この場から去りたい)

「もう行かないと。」

「え、お茶くらい飲んで行けばいいのに。色々あるよ。」

「いい、いい。大丈夫。あ、パートあるし。」

蓮司を見ることすらできない。

「今日休みじゃなかった?」

鼓動が早くなる。

「あれ、そうだっけ?もう分かんなくなってる(笑)」

「昨日、仕事だったんだから、今日は休みでしょ。」

ポンポンを蓮司が京香の頭を撫でる。

「そうだったね(笑)。」

「疲れてるんだよ。今日お弁当届けてもらったし、なんか悪かったな。」

蓮司は申し訳なさそうにしていた。

「帰って晩御飯作っとく。じゃ、帰るね。」

「ありがとな。美味しくいただくから。」

蓮司が入口まで京香を見送った。

 

車を走らせる。

呼吸が早くなる。

 

家に着いて、玄関を開け、リビングに入った。

あの【違和感】。

でも、あの【違和感】をあたしは知っている。

 

この家はとても【落ち着く】。

なぜなら、守られているのだから。

呼吸がゆっくりと戻っていくのを京香は感じた。

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