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守られたこの家  鳥籠の中の私 【ネット小説】

【守られているこの家】の中で暮らすこと。

【守られたこの中】で過ごしているということ。

京香はふと思う時がある。

あたしは、何も知らないことが多すぎるのかもしれない‥と。

 

「ただいま。」

蓮司が帰ってきた。

「おかえり。」

京香はリビングの扉が開くと同時に顔を後ろに向けた。

「今日は、お弁当ありがとな。助かったよ。」

蓮司はスーツの上着を脱ぎながら、京香に声をかけた。

「今日、仕事でさ、店長と話したんだけど‥。」

話の続きをしようとしている後ろ姿を京香は眺めていた。

「どうしたの?」

「あ、ごめん‥。弁当箱、忘れて帰ったわ‥。」

どういうこと?今まで忘れたことないのに?

「どこに置いてきたの?」

「机の中。」

何?机の中って‥。

「机の中?」

「引き出しだよ。」

「そう。」

「俺、明日休みだし、明日会社に取りに行ってくるわ。」

「分かった。」

京香はそう答えるしかなかった。

 

お弁当箱は決して小さいものではない。

というのも、弁当箱自体は2段で普通サイズのもの。

けれど、水筒もあって、それを小さなトートバッグに入れて渡していた。

そのトートバッグは京香が気に入って使っていたもので

雑貨屋さんに売られている可愛らしいバッグ。

お弁当と水筒を両方入れるのだから、決して小さくはない。

それを【机の引き出しの中】に忘れたという。

あのバッグが一番大きな引き出しに入るだろうか、と。

考えていても仕方がない。明日取りに行くという。

京香は明日はパートだ。

 

今日、初めて出会ったあの【若い女性】。

なぜ、彼女はあたしを見て微笑んだのか‥。

笑顔を向けたのではないこと。

あの【違和感】がなにかを感じてしまったこと。

知らなければ良かった‥。

 

そして、お弁当箱を忘れて帰ってきたこと。

明日、会社が休みだから取りに行くということ。

 

考えすぎなのかもしれない。

疑いすぎているのかもしれない。

 

京香が一番見たくなかったもの。知りたくなかったこと。

それは、蓮司が自分以外にも【あんな笑顔】で話をすることを知ったこと。

【あの笑顔】は自分にしか向けられないものだとばかり思っていた。

営業の仕事だから、笑顔でいなければならないのは分かっている.。

今まで見た仕事の蓮司の【笑顔】とはまるで違った。

【普段の蓮司】そのものだったから。

あの【笑顔】で【彼女】と話す姿は、【二人】は見たくなかった。

 

知らないことなんてあった方がいいのかもしれない。

京香は思った。

【不安】は大きくなるばかりで

蓮司を疑う気持ちも自分自身を疑う気持ちも強くなる。

信じることが難しくなる。

 

普段ならなんてことないのかもしれない。

けれど、あの【違和感】と【微笑み】は【不安】を募らせる。

 

京香と蓮司が【夫婦】であるならば

【彼女】と【蓮司】はなんなのだろう。

 

普段ならそんなこと考えもしないけれど

決めつけているわけでもなく

何かがそう思わせる。

 

「また、余計な心配?」

京香は蓮司を見上げた。

「明日、俺が京香を病院まで送って、それから会社取りに行ってくるだけ。」

ポンポンと頭を撫でる。

「帰ったら、家のこと少しやっとくから。いつも京香ばっかじゃん(笑)。」

「ありがと。」

京香は蓮司を真っすぐに見つめた。

「晩御飯、食べよ。お腹空いたよ。」

「そうだね、すぐ準備するよ。」

京香はキッチンへ向かい、ガスに火をつけ、鍋を温める。

お皿を出し、お箸を用意する。

お茶のコップを出して、お茶を注ぐ。

まだ温まりきっていない鍋の前に立っていると、隣の犬が鳴き始めた。

 

「そういえば、隣の犬、もう1匹増えたの?」

蓮司が京香に聞いてきた。

「そうなの?前見たときは1匹だけだったけど。」

「多分、もう1匹増えてるよ、ほら、あの鳴き声違うでしょ。」

耳を澄ます。今まで吠えていた犬が鳴く。

その後に、少し違う声の犬が小さく鳴く。

「ほら、違うでしょ。また増えたんだよ。」

また鎖に繋がれているのだろうか。可哀そうな気持ちにもなった。

2匹なら寂しさも減るのかな‥。

「少し鳴くのも減るか、さらに増えるかどっちかだね(笑)。」

ごはんやお水はきちんとあげて欲しい、ただそう思った。

「ご飯、準備できたよ、食べよ。」

蓮司が隣に座り、夕食が始まった。

 

【守られている家】なのだから。

【守られている】のはこの家で過ごしているからなのだと気づく。

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