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守りたい人~好きだけでいい~ 籠の中の私 【ネット小説】

「初めまして、城木です。」

頭を下げて、挨拶をする。

城木が初めて、会社に入社し、この店舗に初めて所属した日だった。

「初めまして。宮原と申します。」

香澄は、軽く頭を下げて挨拶を交わした。

顔を上げる。初めて蓮司の顔を見た。

蓮司は、清潔感のある男性だった。

背も高く、短髪で、スーツもよく似合っていた。

「初めてこの店舗に来たので分からないこともありますが‥。」

「私は事務全般なので、良かったら分かる範囲内ですが聞いてください。」

そう答えると、蓮司は笑った。

思わず香澄も笑顔になってしまった。

 

蓮司は数日で店舗にも慣れた。

仕事はできる人で、営業も自分から取っていった。

仕事の効率も良かった。

お客さんへもいつも笑顔が絶えなかったし、疲れた顔はあまり見せたことはなかった。

見ていて、こちらまで仕事が頑張れるような気さえした。

受付である香澄は、単調に思えた毎日の仕事も

蓮司がいることで、やる気も上がった。

今まで以上にお客さんへ気を配るようになった。

毎日が楽しくなり、仕事の日が待ち遠しくもなった。

 

蓮司と話せるのは、お客さんとのことや事務関係の話だけ。

それ以上はなかったし、蓮司も話しかけてくることはなかった。

それは、当たり前のことなのかもしれないけれど

それでも香澄はそれ以上のことを期待してしまう。

けれど、それ以上のことなど決してなかった。

蓮司の薬指に光るリングが物語るもの。

【約束を交わした人】がいるということ。

【守っている人】がいるということ。

【守られている人】がいるということ。

 

蓮司の左手を見る度に思い知らされる。

好きになってはいけない‥。

香澄は自分に言い聞かせる。

 

ある日、蓮司はお弁当を忘れてしまった。いつも奥さんに作ってもらっている。

蓮司は少し困っていたようで、お昼になろうとする時計を見ていた。

「お弁当頼みましょうか?」

「いや‥。いいよ。」

「あたし、コンビニ行きますけど、何か買ってきましょうか?」

「いや、悪いよ。」

蓮司は香澄と目を合わせようとはしない。

「だって、これからお客さんと打ち合わせ入ってるでしょ?」

初めて蓮司と仕事以外の会話をするのだ。話を続けたい。

「嫁さんに連絡して持ってきてもらいます。」

【嫁さん】か‥。

香澄は蓮司を見つめていた目も、顔が下を向いてしまった。

会話もなんて声をかけていいか分からなくなった。

「嫁さんが来ると思うので、俺いなかったら

代わりに受け取ってもらえます?」

どうして?

え?どうして?ってあたし思うわけ?

「分かりました。奥さんいらっしゃったら、お伝えしますね。」

笑顔で城木を見た。笑顔でいれただろうか。

「よろしくお願いします。」

そういうと、城木は仕事に戻った。

 

自動ドアが開く。

少し背の高い女性が立っていた。

城木の奥さんだとすぐに分かった。

「すみません。主人は今、手が空いていますでしょうか?」

その女性が声をかける。

「城木さんですね?」

思わず城木の名前を言ってしまった。

奥さんは驚いていた様子だった。

城木を呼びにいき、受付カウンターに呼んだ。

そして、そこで奥さんの話をした。

なぜなら、そこは奥さんからよく見える場所だと分かっていたから。

 

蓮司は用件を聞くと、すぐに奥さんのところに駆け寄った。

奥さんがちらっと香澄を見る。

目が合うのは、あたしが城木さんを見ているから。

奥さんと話をしている姿を見るのは辛かった‥。

だから、余計に目が離せなかった‥。

 

奥さんは、想像通りの人だった。城木によく似合う人。

素敵な人だった。

お弁当を毎日作るという人。

城木がいつもシャツを綺麗に着ているのは

奥さんがアイロンをかけているのだろう。

【守りたい人】だった。

 

好きになってはいけなかった‥。

香澄は思った。

 

好きになったらいけないかな‥。

香澄は思うのだった。

 

蓮司と京香が話している姿を見ると

その気持ちは決して許されるものではないことは分かっていたけれど

【好きだけでいい】気持ちは許されたい。

そう香澄は思うのだった。

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