ナツのsorary

小説 おしゃれ 携帯やブログ設定など連載中です!

鳴かない小鳥 ~愛されたい人~ ネット小説【鳥籠の中の私】

この人のそばにいたいから【結婚】した。

他の誰でもない【彼】だから。

【結婚】という言葉が欲しかったし

【妻である】ことが何より自分には代えられないものだった。

一生そばにいるということ。

添い遂げるということ。

【彼】だから、そうしようと【決意】したんだ。

 

鏡に映る自分の顔をを見ながら京香は思う。

淡いチークを塗り、ピンクベージュのグロスを薄く引く。

控えめなメイクを蓮司が好むことを京香は知っている。

あくまで、ナチュラルな、自然なメイク。

でも、キレイに仕上がったメイクであること。

そこには十分すぎるほど気をつけていた。

 

結婚してから、自分は【安心】を得るものだとばかり思っていた。

けれど、逆だった。

【不安】は消えなかったし、大きくさえなってしまった。

恋人で会った時の方が感情をぶつけていたかもしれない。

「どうして分かってくれないの?どうしてそうなの?」と‥。

 

【不安】はどうしてあるのか、疑問に思う。

【結婚】し、【妻である】こと。

安心さえし、蓮司を支えるべきなのに。

 

【結婚】して思ったことがあった。

この人はいつも【愛されたい人】なんだと‥。

愛されたいのは、私だけではなく、【誰からも】ということ。

認められたい、求められたい。

もともと、仕事に上昇志向の強い人ではある。

けれど、それとは別に【認められたい】【求められたい】

という気持ちが強い。

そういうところに気付いていたし

そこを否定することなどできなかった。

蓮司はそのことにはおそらく気づいていないだろう。

 

蓮司が「愛してる、好きだよ。」と言葉にするけれど

それはきっとそう言って欲しいからなんだろう、と思うのだった。

「言うことに慣れているのね。」

と言ってしまうのは

軽く言う言葉じゃないと京香は思っているからだった。

 

京香自身、蓮司を本当に愛していたし

結婚してからも想いは募る。

だからこそ、辛くもなり、苦しくもなる。

(どうして気づいてくれないの・・)

その言葉が言えなかった。

言えるはずもなかった。

愛してるよ、のその言葉の裏には

いつもそういって欲しい、という蓮司の想いがある。

 

愛しているし、そう言いたいし、伝えたい。

けれど、あなたは私だけからじゃ足りないことに

気づいているの?

あたしが気付いていないと思ってた?

 

鏡越しに映る蓮司の顔を眺める。

蓮司はこちらを見ていた。

「キレイだよ。」

その言葉はなぜか記憶の遠くまで飛び越えてしまった。

感情も何もない【言葉】。

それは違った。

感情も何もないのは何?

 

あの日、【違う誰か】になってしまった。

(ほら、その【言葉】は慣れているのね。)

独り言のように京香はこころで呟いた。

もう【違う誰か】になってしまったことに気付いたあたしも

夫婦でありながら【違う誰か】なんだ。

(分かってる?)

蓮司の方を振り向き

「ありがと。」

笑顔でそう答えた。

 

朝の陽射しがカーテン越しに明るく射している。

それが、この家の静けさを一層引き立てた。

 

蓮司がソファーから立ち上がり、鞄を手にした。

「じゃ、仕事に行ってくる。」

「行ってらっしゃい。」

玄関まで蓮司を送る。

バタンと玄関が閉まり、この家に音などなくなった。

あるのは、光だけ。

 

f:id:natsunosorary:20190421181006j:plain

 

にほんブログ村 ファッションブログへ