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優しい嘘が繋ぐもの ~夫婦のカタチ~ ネット小説【鳥籠の中の私】

今日は1日中雨が続いていた。

(夕方から強くなるって天気予報で言ってたな‥)

京香はレースのカーテンを少しだけ開けて、外を見ていた。

空を見上げると、雨雲が空を覆っていた。

雨足が強くなる。

(これから強くなるな)

レースのカーテンを閉めて、リビングのソファーに座った。

もう晩御飯の支度は整っていた。

後は、蓮司が帰ってきたら、鍋を温め直すだけ。

サラダは野菜を軽く混ぜ合わせてあるから

手作りの胡麻ドレッシングをかけあわせるだけだ。

 

ふと、隣の犬のことが頭に浮かんだ。

(こんなに雨が降っているけれど大丈夫かな)

京香はまた窓際に向かい、レースのカーテンを開けた。

隣の家の庭は見えるわけなどなかった。

犬の鳴き声はしなかった。

(家に入れてもらえてるのかな)

今日は守られているといい‥。

そう願って、またソファーに戻る。

 

時刻は、19時を過ぎていた。

いつもなら、蓮司から「今から帰るね」とラインが入る頃。

それが入らない。

(今日は遅くなるのかな)

スマホを眺めた。

蓮司と撮った写真を眺めていた。

 

気が付くと、20時を過ぎようとしていた。

いつもよりだいぶ遅い。

「ライン」スマホが鳴る。

「今から帰るね。遅くなった。ごめんね。」

「いいよ、気を付けてね。雨がひどいから。」

そう返信すると、京香は窓際へ行き、レースのカーテンを開けた。

まだ、雨は止んではいなかった。降り続く雨。

 

「ただいま、ゴメン。遅くなって。連絡できなくて。」

鞄を置き、ジャケットを脱ぎ、ネクタイをゆるめながら蓮司は言った。

「お仕事だから、連絡できない時もあるよ(笑)。」

そう言うと、蓮司は少し目を伏せた。

「そうだけど、ちゃんとご飯の用意もしてくれてるんだし

連絡しないとね。俺が悪かった。」

「そんなに気にすること?(笑)」

脱がれたジャケットやシャツをたたみながら

「身体冷えたでしょ、先にお風呂入っておいで。」

京香は蓮司を促した。

「そうするよ、すごい雨だったね。身体温めてくる。

その後、美味しい晩御飯楽しみにしてるよ。」

そう言うと蓮司はお風呂場へ向かった。

 

京香は気づいていた。

今日は雨だった。

駐車場までは距離があること。

蓮司は傘を車に乗せていないこと。

その割に、ジャケットが濡れていないこと。

カッターシャツも濡れていないこと。

帰る時間も雨は降っていた。

あの雨であれば、ジャケットもズボンもかなり濡れているはずだ。

 

それでも京香は蓮司を問い詰めようとは思わなかった。

【知らない】でいいこともある。

【知らない】方がいいこともある。

【知らないふり】をする必要もある。

それは【夫婦】だからできることなのかもしれない。

 

【誰か】と一緒にいたこと。

【誰か】と【どこか】に【一緒】にいたこと。

ジャケットやシャツが物語っている。

それ以上を知る必要はない。

これだけで十分だった。

 

もしこれが仕事なら、蓮司は

「仕事で遅くなった。」と京香に言うだろう。

今まではそうだったのだから。

それを言わないということは、きっとおそらく【別の理由】だ。

話さないのは、【話せない理由】があるからだ。

 

お風呂から上がった蓮司に一つだけ聞いた。

「今日傘持って行ってたの?」

「持って行ってたよ、雨降るからさ(笑)。」

傘など持ったことなどないのに‥。

それに傘は1つしかない。

傘は今日、京香がパートへ行くときに使ったのだった。

 

なぜか分かってしまうのは【妻】であるからだろう。

長く蓮司と過ごした【時間】のせいだろう。

蓮司のことを【知り過ぎてる】からかもしれない。

 

確実な何かがあるわけではないけれど

【不自然さ】はあることは【事実】。

それだけで、もうこれ以上何も聞く必要はないと思った。

 

「ご飯食べよ。」

蓮司は変わらない笑顔を京香に向ける。

「すぐに準備するね。」

京香も変わらない笑顔を蓮司に向ける。

(この人は嘘をついている)

そう思いながらも同じ食卓を囲む。

「京香のご飯はやっぱ一番美味しいな。」

そう京香に向けられる蓮司の笑顔は京香には届かなかった。

「ありがと、いつもそう言ってくれて嬉しいよ。」

そう答えてしまうあたしも【嘘をついている】の?

【気づかないふり】をしているということに‥。

 

これが【優しい嘘】というなら

そんなものはいらない。

【優しさ】もいらない。

【もうどこか違う誰か】であって

【違う誰か】を求めているのなら、求めたのなら

この【優しい嘘】は私たちの何を繋ぐの?

 

いろんな感情が頭を駆け巡りながらも

京香は【普通】でいることができた。

それは、蓮司を想う【優しい嘘】に【気づかないふり】をするために。

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