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守りたいもの ~ひとりで守りぬく覚悟~ ネット小説【鳥籠の中の私】

香澄の部屋を初めて訪れてから数ヶ月が経とうとしていた。

香澄との関係は相変わらずで

ただ【求め合う】だけの関係だった。

 

俺自身、そこに【愛情】があるのか、と聞かれれば

ないわけではない。

【愛情】がなければ関係など持たない。

ただ、その愛情は【求められる】愛情だから応えるし

俺自身も【求める】から応える。

【真の愛情】なのか、と聞かれれば疑問はあるけれど‥。

 

たとえばそれは

京香になにかあったとして

京香をずっと失うことなど考えられない。

 

けれど、香澄は

失うであろうことは想像できてしまう。

 

京香は変わらず笑顔を向けてくれるし

良くしてくれている。

何も変わらないでいてくれる。

ずっとそばにいてくれる。

 

ふと、隣に眠りに落ちた香澄の横顔を見つめた。

香澄は、これ以上の関係を求めてはこない。

蓮司も言葉にはしない。

言葉にはしてはいけない気がしたし

言葉にすると失う気さえした。

それは、お互いがよく分かっていたことだった。

時間が経てばたつほど、そのことは言葉にしてはいけないこと。

思わず香澄の頭を撫でる。

【愛情】を込めて‥。

 

京香はいつものように受付で仕事をしていた。

「すみません、初めてなんですけど‥。」

(新患さんかな)

「初めての方ですね。それでは、保険証をお願いします。

それから、こちらに問診票をお願いします。」

いつもの新患の患者さんの流れのように、その女性に問診票を渡した。

保険証を受け取る。

【宮原香澄】

パソコンに入力し始める。

社会保険加入、被保険者。

「問診票書きました。」

女性から問診票を受け取り、ざっと目を通した。

京香は看護婦ではないが、手早く診察につなげるために

問診票に目を通し、看護婦に伝えなけれなならなかった。

【生理遅れ 検査薬陽性】

(妊娠の可能性かな)

「それでは少しかけてお待ちください。」

京香は初めて女性の顔を見上げた。

(あ、この人は‥)

香澄は微笑みながら京香を見つめていた。

「こんにちは。覚えていらっしゃいますか?」

(知らないふりをしたい)

目を逸らせなかった。

「主人の会社の方ですよね。いつも主人がお世話になっております。」

「あの時は、きちんとご挨拶できなくて申し訳ございません。」

「いえ、とりあえず身体の方が大事ですのでかけてお待ちくださいませ。」

「ありがとうございます。」

香澄は軽く頭を下げて、椅子に腰を掛けた。

バックから本を出し、読み始めたようだった。

 

京香は【妊娠 検査薬陽性】が頭をよぎる。

香澄がこの病院へ来たことも。

なぜなの?

【知らないでいいこと】なんてなにもなかった。

 

香澄は生理が遅れていた。

1週間遅れることなんてよくあった。

けれど、今回は違う気がした。

休みの日、ドラッグストアで検査薬を買い、すぐに検査をしようと思った。

陽性だったらどうしよう、なんて不安はなかった。

もう【決めていた】。

翌朝、検査薬をしたところ【陽性反応】が出た。

「やっぱりな。」

そんな気がしたし、そうなることを望んでいた。

だからといって、蓮司との関係をこれ以上望めはしないことは分かっていたし

望んだところで、関係が壊れてしまう方が嫌だった。

守るなら【ひとりで守っていく】。

そう決めていたから。

蓮司のそばにもいたいから。

 

それが【愛情】というなら

人とは違うのかもしれないし

反感も大いにされることだろう。

けれど、蓮司だけは失いたくなかった。

守りたいものは蓮司との間に生まれた大切な宝物。

誰にも壊させたりなんかしない。

不倫していることがよくないとされるなら

好きな人がいることはどうなの?

好きな人と求め合うことは?

好きになった人が

たまたま奥さんがいただけ‥。

そう言い聞かせる。

 

間違った【愛情】なんてあるのだろうか。

あやまった【愛情】なんてあるのだろうか。

ただ、そこには【相手を想う愛情】はあるのだろうか。

 

【愛情】はひとりでは成り立たない。

それを見失ってはいけないこと。

【求め合うだけの愛情】に相手はいるけれど

その相手の【ココロ】まで見失ってはいけない。

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