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幸せだった日々 ~守られた家~ ネット小説【鳥籠の中の私】

もう【この家】にはなにも【ない】。

残されたものもない。

【ふたりの未来】もない。

 

ずっとこの家で守られてきて

また、この家を守ってきたけれど

もうこの家には【守るべきもの】がなにもない。

京香はそう思う。

 

蓮司をいつも通り、朝見送った。

「行ってらっしゃい。」

これが、蓮司にかけた【最後の言葉】だった。

京香の【最後の笑顔】だったけれど

蓮司が振り向くことはなかった。

 

出逢いは突然でもあり

次第に、抱く想いも強くなった。

お互いを想うようになり
【結婚】できたことは【幸せ】だったし【奇跡】だったと思う。

 

ただ、当たり前の日常を見失ってしまっていたのかもしれない。

彼を知らなかったのかもしれない。

【生活】という中で

【知らなさ過ぎた】のか【知ってほしかった】のか。

【許せなかったのか】【許したかったのか】。

 

どれだけ自分に問うたところで答えなど出るはずもなかったし

出ることはないだろうと思った。

 

なぜなら、【この家】にいる限り

この家の世界での空間でしか生きられないということ。

それを一番わかっていたから。

 

身勝手なことなのかもしれない。

 

許せないのは蓮司や香澄であること。

そんな憎悪の気持ちを抱いたまま生活していくこともできない。

この想いは消えることはないだろうし

時間とともに薄れていくものなのかもしれない。

 

けれど、忘れるならば

いっそ離れることをしなければ

この想いは強くなるばかりだ。

そういう自分が【許せなかった】。

いっそ、すべて彼らのせいだと思えればいい・・。

どこかでそう思う。

(あたしに子どもができてたら違ったのかな・・)

京香はそう思うのだ。

 

【生活】や【生きていくこと】を考える。

【ふたりで生きていくって決めたでしょ?】

その言葉を思いだすたびに、目を閉じる。

もっと大切にするべきことがあったのだろうか・・?

時間は戻らないということ。

今、【新しい命】があるという【真実】。

(ふたりで生きていくか・・)

荷物を片付けも終わり、リビングの天井を見上げた。

 

京香は玄関の扉を開けて外に出た。

荷物はキャリーケース1つに小さなハンドバックだけ。

鍵を郵便ポストに投げ入れた。

2,3歩歩き、家を眺めた。

「もう、本当になにもないのね。」

そう言うと、前を向いて歩き始めた。

 

蓮司はいつも通り、仕事を終えて帰宅した。

「ただいま。」

電気もついていなければ、京香がいる様子もない。

(どこか出かけているのかな)

部屋の明かりをつけた。

リビングは綺麗に片付けらていた。

2階へ上がり、スーツを脱ぐために、クローゼットを開けた。

(京香の服がない)

蓮司は愕然とした。

1階へ下りる。

下駄箱を見たけれど、京香の靴はある。
キッチンは片付けられているけれど

夕食の準備はされていなかった。

(夕食があるなんて当たり前のこと考えんな)

京香がいないことはすぐに分かった。

家事をしないことなんて今までなかったから。

(いつかこうなるだろうと思った・・)

ソファーに倒れこんだ。

いっそ俺を責めてくれた方がよっぽどよかった・・。

今までこらえていた泪が一気にあふれだす。

一言も責めず

「そばにいてあげて」

そう言った京香。

(一言もなしかよ。最後の言葉はそれかよ・・)

泪が止まることはなかった。

 

 

ただただ、京香の笑顔だけが思い浮かぶ。

一緒に暮らした【この家】。

ご飯や寝る時。一緒にお風呂も入った。

プロポーズはカフェだった。

幸せだった。

もう戻ることはない。

 

香澄からのライン。

「会いたい」

会いたい人はもういない。

必要なひともそばにはいない。

求める人も愛する人もいない。

「わかった」

送信。

 

半月が昇る日の夜だった。

京香は【守られた家】から出て行った。

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またね、大切な人 ~ひとりで生きていく覚悟~ ネット小説【鳥籠の中の私】

あれから、蓮司と京香の生活は変わることはなかった。

変わったことといえば

【夫婦で生きている】というより

【ふたりで生活をしている】という感じだった。

 

【ふたりで生きていく】ことと

【生活をしていく】ことは

【夫婦】だから成り立つものだと思っていたし

【ふたり】だからできるものと思ってた。

 

けれど、その【ふたり】の関係が

決して【夫婦】でなくても

愛し合う関係でなくても成り立ってしまうこと。

 

それは、生きていくため。

 

【生活をしていく】ということが

どれほど複雑であり

またシンプルなものであるのかと思う。

 

京香は、ふと香澄のことが頭をよぎる。

それは、嫉妬や怒りでもなく

ただ、どうしているんだろう、と思うのだ。

 

ふと、最近、隣の犬が鳴かないことはことに気がついた。

あれだけ、鳴いていた声を聴かなくなったことが

急に寂しくも思えた。

京香は庭に出て、隣の庭をのぞいてみた。

(え?)

繋がれていたはずの犬がいないことに気づく。

鎖が首輪から外れてしまっていた。

(自分から逃げたのね・・)

自分の犬であるかのように、少し近所を歩いてみたけれど

見つかるはずもなかった。

いつからか聞こえなくなったあの儚げな鳴き声を・・。

 

(ずっと繋がれたままで、そこの世界しか知らなかったものね。)

京香は思う。

(他の世界を知る方がいい。見つける方がいいわ。)

そう願い、少しだけ晴れた空を見上げた。

 

京香が俺に何か聞くこともなかったし

俺から話すこともなかった。

 

それなのに【日常】は過ぎていく。

ここに今、自分の生活が【在る】ということ。

 

それは京香存在があるからこそ、その日常は存在する。

けれど、今までのような幸せな日々ではないし

京香の笑顔を見ることはなくなった。

笑い声も聞くことさえなかった。

 

ただ【生活】だけがそこにあり、俺がそこにいる。

【許し】を請うことで京香との関係がうまくいくはずもなく

決して許されるはずもなく

【許す】【許されない】【許さない】という問題でもない。

だからこそ、一番こたえるし、戸惑い

ココロが打ちひしがれる。

それなのに、京香のそばにいるということ。

京香とともに過ごすことをしている俺は

彼女を求めているし、求めて欲しいと思う。

一番愛して欲しいと思う。

(勝手だ)

ソファーにぐったりと座り込み、天井を見上げた。

(この家は静かだな)

蓮司は思った。

(京香はひとりでいたんだな)

目を閉じる。

(静かな、広いこの家でひとり何を想ってきただろう)

ココロに闇が覆ってきた。

 

京香は目を閉じて眠ろうとしたけれどなかなか眠れなかった。

この生活はいつまで続くの?

このままではいけない・・。

 

【ふたりで生きていくって決めたでしょ?】

そういって蓮司と手を繋いでいる夢を見た。

【そう、ずっと。そばにいる】

京香は幸せでいっぱいだった。

その時

ガチャン!頼んでいたチャイラテがこぼれてしまった。

京香はチャイが好きだった。

チャイを置いているカフェが少なくて

【このお店になかなか来れないのに】

京香は悲しそうに言う。

【大丈夫、また来よう】

【またって、いつ?】
【今度な】

京香は泪に気づいて目を覚ました。

 

あのお店はまだあるだろうか。

蓮司が初めてプローズしてくれたお店。

それからそのお店に行くことはなかった。

約束は叶うことはなかった。

蓮司がカフェが苦手だったから・・。

(またなって言ってたな)

天井を眺め、泪だけがこぼれる。

 

(またね、蓮司)

 

朝が明けようとしていた。

カーテンから少しずづ部屋が明るくなるのが分かる。

 

【ひとり】で生きていく【覚悟】をした朝だった。

 

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【幸せの意味】と【哀しみの意味】 ~光を目指して~ ネット小説【鳥籠の中の私】

【当たり前の日常】を失うこと。

それは失望と絶望でしかないのだうか。

果たして本当にそうだろうか。

 

望みは失ってたとしても

絶たれたわけではないということ。

これから何を望み

これから生きて行くのかは自分で変えていけるということ。

それに気づくのはもう少し後のこと・・。

 

 

【幸せの意味】を考える。

誰の?

幸せってなんだっけ?

【ふたりで生きていく】って決めたんでしょ?

誰と?

目を閉じる。

静かな部屋の中、雨の音だけが聞こえる部屋の中で耳を澄ます。

 

あたしは蓮司と生きて行くことを選択し

共に生きていくことを決断した。

そのための【覚悟】ならなんでもしようと思った。

それが【結婚】することなんだと思った。

共に生きるとは生活を共にすることでもある。

生活は生きていくことでもある。

【許すこと】をしなければ共に生きていけない。

けれど【許す】ことは難しい。

自分を許すことも難しいのだから・・。

 

蓮司からきたライン。

「子どもができた」

返信はしなかった。

 言葉がなかったし、見つからなかった。

怒りもなかった。

あったのは、【哀しみ】だった。

(どうしてあたしじゃなかったんだろ)

泪が溢れてくる。

蓮司の前では泪など出てこなかったのに・・。

 

「そばにいてあげて。」

その一言だけ送信した。

【これからのふたり】のことより

【これから生まれてくる命】の重さを知っているから。

それ以上のことはなかったし

子どもがいない京香にとって

子どもができない京香にとって

今【望む】ことは【新しい命】の大切さだったから。

 

京香からのラインを見て蓮司は思う。

香澄がどれだけ不安であることを分かっているのは

俺ではなく京香であること。

 

【ふたりで生きていくって決めたでしょ】

俺は、京香と喧嘩するたびに言ってきたし

自分にも問いかけた。

 

【結婚】して

この人を【守りたい】と思い

【そばにいて欲しい】と願い

【そばいにいたい】と思った。

それがずっと続くものだと思ってた。

 

「そばにいてあげて」

この言葉の意味。

守るべき人は誰なのかを京香は教えていること。

幸せにしたい人を一番哀しませてしまったこと。

自分への失望。

 それでも、守るべき人がいるということ。

【ふたりで生きていくって決めたんでしょ?】

その言葉はもう京香には届くことはないだろうと思った。

 

蓮司が今そばにいてくれているということ。

けれど、ココロは彼女を愛し続けているということ。

それは、これからも変わることは決してないだろう。

いくら求めあってもココロまでは求められない。

ココロは彼女にあるのだから。

そんなことは分かっていたのに・・。

 

そばにいても、こんなに彼が遠く

触れることはできるのに

深い哀しみに覆われてしまう。

この【哀しみ】はなぜ?

彼にそばにいて欲しいと望んだのはあたしよ?

 

それでも生きていくということ。

生きていかなきゃいけないということ。

【ひとり】で何を目指し

光はどこにあるのか。

 

雨はやみ始め、雲が少しずつゆっくりと動きだした。

(もう雨はやむかな。)

京香はカーテンから外を見上げた。

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【未来】を見つめる瞳 ~それぞれの泪の意味~ ネット小説【鳥籠の中の私】

「朝ごはん、食べないの?」

もうそれ以外の言葉など見つからなかったし

沈黙が続くことだけは避けたかった。

せめて【ふたりの時間】を。

【ふたりの日常】を【ふたりの生活】を感じたかったから。

「 何があったの?」なんて聞くことも

予想すらできる事柄も改めて聞く必要もない。

 

聞かなかったのは

聞きたくなかったのかもしれなし

受け止めることができない、と自分を守ったことなのかもしれない。

同時に、蓮司を見守ることでもあったのかもしれない。

 

「いや、いい。」

「どうして?コーヒーだけでも飲んだら?」

こんな風に冷静である自分がいることに驚く。

「もう、仕事行くよ。」

「まだ、出勤には時間早くない?」

出勤するまでまだ30分はあった。

「取引先の仕事、まだまとめてなくて。」

蓮司らしくない。いつもすべて終わらせる人だ。

(この人はまた嘘をついたな)

溜息をつく。

「それなら、お弁当すぐ用意する。包まないと。」

京香は席を立ち、キッチンへ向かい、お弁当袋を出した。

お弁当箱にご飯を入れ、おかずを詰めていく。

お箸を入れ、お茶を入れる。

2階にいる蓮司に声をかける。

「用意できたからいつでも出れるよ。」

「分かった。ありがとう。」

2階から蓮司が降りてきて、お弁当を受け取り、玄関へ向かう。

「じゃ、行ってきます。」

京香の顔を見ることはなかった。

「行ってらっしゃい。」

その声にココロは届かなかっただろう。

バタンと玄関の扉が閉まる。

いつものように出勤前に京香を抱きしめることはなかった。

 

蓮司を見送り、静けさだけが残った家の中で【ひとり】思う。

雨の音だけが聞こえる。

守られた家、守られてきた家の中で思う。

あたしは、もう、この人を求めることはないのかもしれない・・。

そう思った朝だった。

 

子どもができたこと。

【父親】になるということ。

なぜ、【覚悟】をしておかなかったのか・・。

【求めてくれる人】だった。

【求めた人】だった。

だから【求めあった】。

そこに【愛情】もあった。

そこに足りなかったものは【覚悟】や【未来】だ。

大切な人を失ってしまう怖さ。離れていくという不安。

心がかき乱される。

未来を見ようとしなかった自分への過ちだ。

 

それでも命は育まれる。

大切なものとして。

 

「あなたは父親になるのよ」

その一言のラインだった。

一緒にいて欲しい、そばにいて欲しい。

そんな言葉は羅列されてなどいなかった。

だからこそ、今から生まれてくる【命の重み】や【大切】を思い知る。

 

京香に言った言葉を思い出す。

「子どもが欲しいなら協力するよ。」

なんて軽率な言葉だったんだろうと。

 

子どもが生まれるということ。

【妊娠】するということがどれだけ【奇跡的】なことであるのか。

当たり前なんかじゃないということ。

 

二人で生きていけばそれでいいと思っていたことは

俺の生き方がそう望んでいたことであって

京香は本当にそれを望んでいたのか?

俺は京香の何を見てきた?

何を知っていた?

 

京香の笑顔だけが脳裏をよぎる。

 

【母親】になるということ。

育てるということ、育てていくということ。

香澄は目を閉じた。未来を想像する。

子どもが生まれ、母親になり、育てていくことを・・。

想像できないのは、まだ実感が足りていないから。

【母親】として・・。

それでも、【命】は育まれていく。

「あたしはママになるのよ。なれるの?」

【ひとり】部屋で泪をこぼした。

 

部屋のインターフォンが鳴った。

(こんな朝早く誰?)

香澄は扉を開けた。

そこには蓮司が立っていた。

(そうだった、ライン、送ったんだった)

「入るね。」

一言だけ香澄に声をかけ、部屋に上がった。

香澄を見ると

「身体、冷やしたらだめだよ。何かあったかいもの飲む?」

香澄はこらえていた泪が溢れてきそうになる。

蓮司はキッチンに立ち

「ココアとか飲める?」

カップの用意をし始めた。

二人でココアを飲み始めた。

こんな風にゆっくり時間を過ごすことなどなかったかもしれない。

 

あたしはこの人の何を見てきたんだろ?

ココアを飲んでいる蓮司の横顔を見た。

あたしはこの人の何を知っているというの?

あたしはこの人の何を知らなければならないの?

 

蓮司がそっと香澄に手を重ねた。

まっすぐ前を見るその目は何か力強かった。

揺らぎないものを感じた。

香澄を前を見つめた。

窓の外は雨が降り続いていた。

 

初めてこの部屋を訪れた日のように、雨足はひどくなるばかりだった。

 

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ふたりで生きていくということ ~他のだれかと~ ネット小説【鳥籠の中の私】

蓮司と結婚して3年が経つ。

これまで、喧嘩をすることはたくさんあった。

言い争うことだってたくさんあった。

 

一緒に生活をすることって何だろうと思う。

 

【好きだから一緒にいる】だけでは成立しない気がする。

 

【生活】していくということは【生きていく】ということ。

【ひとり】ではなく【二人で】。

【結婚】とはそういうものだと思うし

だから【覚悟】が必要なんだと思う。

 

【覚悟】も簡単じゃない。

【結婚】において、【ひとり】では成立しない。

 

だから、いくら今まで喧嘩をしてきても

きっとうまくいっていたのは

「ふたりで生きていくって決めたんでしょ?」

そういう言葉が出ていたし

そう自分に思い返すところがあった。

 

いくら許せないところがあっても

許容範囲を超えそうになっても

自分が決めた【結婚という覚悟】があったし

【選んだ人】を間違っていないという【確信】を持っていたかった。

信じていたかった。

 

生きていくということ。

【二人で生きていく】ということ。

当たり前だけれど、住む家があり、食事をし、入浴もし、洗濯や掃除をする。

仕事をし、生活をしていくということ。

その【当たり前】が

どれだけ【幸せなこと】なのかを見失いそうな時がある。

 

選んだ人が自分の好きな人であり

愛する人であるということ。

また、その人も自分を選んでくれたという奇跡。

そんなことも見失いそうな時がある。

 

「俺は、京香と二人でいいと思ってる。」

その言葉は嬉しいと、幸せだと思う。

「京香が子どもが欲しいなら協力するよ。」

その言葉も嬉しい。

京香自身が悩んでいることを蓮司がそばで見ていて一番知っているのだから。

 

ソファーに座ったまま、蓮司のいない広いリビングを見渡した。

(こんなに広かったかな)

静まり返った部屋に明かりだけが灯る。

余計に寂しさが募る。

京香は【ひとり】になった気がした。

(ふたりで生きていくって決めたんでしょ?)

京香はそう自分のココロに問いかける。

そう、一緒に生きていくって決めたのはあたしよ。

ココロの問いに答えた。

 

京香との間に子どもが欲しくないわけじゃないこと。

ずっと二人で生きていきたい。

蓮司はそれしか願ってなどいなかった。

子どもが授かれば素直に嬉しいし、可愛い。

今より幸せが大きくなるかもしれない。

今が幸せじゃない、というわけではなく

京香と【ふたりで過ごす時間】を大切にしたいだけ。

だから、さっき、京香が食事を先に終えた時も

とても寂しかった。

(まるで子どもだな)

身体を横に向けた。京香はいない。

京香の匂いだけが残る。

(朝、謝ろう)

蓮司は目を閉じた。

 

子どもができたことを蓮司に話すべきか。

香澄はテーブルの椅子に座り、スマホを眺めていた。

驚くかもしれないけれど、彼ならある意味冷静なもかもしれない。

守りたい命がここにあるということ。

そばにいて欲しい人は違う人を愛しているということ。

(好きになんてならなきゃよかったのかな)

スマホの写真を眺める。

蓮司は大切にしてくれるし、会にも来てくれる。

香澄から奥さんの話はしなかったし、蓮司もしなかった。

この暗黙のルールはずっと続いていたし

守らなければ離れていくこと。

いろんな【覚悟】をしておけばよかった‥

香澄はため息をついた。

後悔はなかったけれど、【不安】はある。

ずっと傍にいて欲しい。

愛している人として。

そして父親になる人として。

 

その日の朝は少し雨が降っていた。

(今日は洗濯はお部屋かな)

京香はカーテンを開けてそう思った。

「おはよう。」

いつものように蓮司が声をかけてきた。

「おはよう。」

京香は笑顔で振り向く。

いつもの日常がまた始まるのかと思った。

 

いつものように朝食の準備を始める。

珈琲を入れ、食パンを焼き始める。

テーブルには蓮司の好きなマーマレードを置く。

お皿を並べ、簡単な朝食。

「用意出来たら教えて。」

そう声をかけた。

「もう食べよ。パンは焼き立てがうまいよ。コーヒーは温かいうちがいい。」

蓮司は笑顔で言い、テーブルへ座った。

 

変わらない生活に戻るのだと思った。

「あのさ、昨日‥」

蓮司が言いかけた時だった。

スマホが鳴った。

香澄からだった。

初めてだった。家にいる時に連絡があることなどなかった。

「見なくていいの?」

ラインを見るように促したけれど、蓮司は見ようともしない。

「あたしが気になるから見て。」

口調がきつくなる。

スマホを手に立ち尽くす蓮司。

【ふたりで生きていくって決めたんでしょ?】

この言葉だけが脳裏に残る。

答えが出てこない。

【ふたりで生きていくって決めたんでしょ?】

あなたは誰と【ふたり】で生きていきたいの?

 

もういつもの生活に戻ることはなくなる‥

そう思った朝だった。

 

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